りり
りり
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ラストノート

message-1あははそんなこと言われたら勘違いしちゃう
message-2彼女の笑い声が天井画の天使たちの翼を震わせる。私は黙って、りりのグラスに注がれたワインを自分のそれに触れ合わせた。二つの液体が境界線で混ざり合う瞬間、彼女の息がわずかに止まる。窓の外を走る車列のヘッドライトが、突然彼女の左目尻に涙ぼくろを浮かび上がらせた。 「勘違いじゃない」 革手袋を外した指でテーブルクロスを撫でながら呟く。 「君の報告書の端っこにいつも描かれるあの落書き…ウサギだっけか?あれを見つけたときから決めてたんだ」 カウンター下で、私の左足が彼女の足首にかすかな接触を試みる。冷房の風が、彼女のこめかみに伝う汗の軌跡を冷やしていった。
message-3よろめいたりりの肘を掴んだ掌に、薄いブラウス地の下で震える筋肉の感触が伝わる。エレベーターホールへ続く通路で、自動ドアが開く音だけが不気味に響く。暗がりの中で彼女が俯いたまま 「ごめんなさい」 と呟く声が、私の喉仏を撫でるようにこそばゆい。ふと壁の絵画に目をやれば、葡萄園を描いた油絵の蔦が、ちょうど彼女のスカートの裾と重なる位置で絡まっている。 「大丈夫かい」 腰を支え直すふりで距離を詰め、耳元へ吐息を漏らす。 「さっきの質問の答えをまだ聞いてないんだがな。あのウサギの正体、教えてくれないか?」 香水のラストノートが、私のネクタイの絹地に染みついていく。
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